「自由エネルギー」は「フリーエネルギー」とも言います。 チマタでは「フリーエネルギー」というと、 永久機関もどきのエネルギーを指すことがしばしばあります。 その場合の「フリー」の意味は「自由」ではなく、「無料で」の意味だそうです。 いわゆる「擬似科学」に分類されるものです。
このページで言う「自由エネルギー」は、それとは違い、 熱力学で言うトコロの「ギブス(の自由)エネルギー」・ 「ヘルムホルツ(の自由)エネルギー」を指します。 ただ、筆者タヌキは擬似科学系の話もキライではないので (むしろ結構好きです。信じているワケではありませんが、ウォッチャーしてます。 「と学会」と菊池誠センセイ、応援してます…)、 機会があれば学生時代にひっかかってドツボにハマりそうになった 擬似科学系の話も書いてみたいと思いますが、ここでは控えておきます。
熱力学変数のうち、\( F \) または\( A \) で表される「ヘルムホルツエネルギー」や \( G \) で表される「ギブスエネルギー」は、少し古い教科書によると 「ヘルムホルツの自由エネルギー」、「ギブスの自由エネルギー」と 表記されていました。最近は「の自由」を省略した呼び名が多く、 フリーとか自由の語句はあまり用いられないようです。
研究室に配属される前(昭和時代の末頃です)までは、 タヌキはこの「自由」の意味についてあまり深く考えることなく過ごしておりました。 当時使っていた教科書にもあまり書いていなかったような気がします (書いてあったかも知れません。タヌキの不勉強で 見落としていたの可能性もあります)。
…んで、研究室配属後のある日のことです。別のページでも登場した 優秀なる指導教官T先生が、またしてもタヌキに「教育的クイズ」 (つまり適度な落とし穴を仕込んだ質問)を出すのです。 ここでも見事にタヌキは穴に落ちます。
教官T | 「なぁタヌキ君、温度が高くなったらエネルギーはどうなるんやった?」 |
タヌキ | 「温度が高くなったら、エネルギーも高くなるでしょう?(直球な解答)」 |
教官T | 「(ちょっと不安そうに)タヌキの先輩君、あなたの解答はどうかな?」 |
先輩H | 「どのようなエネルギーを指すのかにもよりますね。   内部エネルギーですか?それとも自由エネルギーですか?」 |
教育効果を狙って「大事なポイントに注意を促そう」と考え、 いい具合に疑問が沸くよう、網を仕掛けた上で放たれた質問だと思います。 ところがその網にひっかかるどころか、 タヌキは音速を超える勢いで網を突き破り、 一瞬で穴の底に激突しました。
いや、ホントに…
この後、海外出張を目前に控えていた指導教官T先生から
励まし(心配)の言葉と、それに対するタヌキの返答…
一般的な意味で、温度が高くなるとエネルギーが高くなるというのは 概ね正解です。その場合のエネルギーは、物質に内在するエネルギー、 すなわち、内部エネルギーやエンタルピーなどを指します。 内部エネルギーの場合、その内訳は分子や原子の運動エネルギーや 他の原子・分子(の集団)に対するポテンシャルエネルギーの総和であって、 温度上昇とともに大きくなり、その温度依存性は比熱という係数で 評価されます。
\( \)物理化学においては、内在するエネルギー自体も大事ですが、 そこからどれだけのエネルギーが取り出せるかが 重要になる場合が多いです。 温度が高くなると、自発的な変化では外部へ取り出すことが困難になる部分が 大きくなります。この値は「エントロピー×温度」すなわち " \( TS \) "で 与えられます。つまり、内部エネルギー" \( U \) "を用いて言うと、
物質に内在するエネルギー | \( U \) |
自発的な変化で取り出せない部分 | \( TS \) |
自発的な変化で取り出せるエネルギーの最大値 | \( U - TS \) |
最後の \( U - TS \) は「ヘルムホルツの自由エネルギー\( F \) (または \( A \) )」です。これは物質に内在する内部エネルギーから、 我々の自由にならない項\( TS \)を引いた分が、 我々が自由にできる(自発的な変化によってとり出せる)エネルギーの 最大値「\( U-TS \)」になるということを表しています。 そして、\( U \)が温度上昇とともに大きくなる度合いよりも \( TS \) の増加の度合い大きい場合(大抵はそうなります)、 Fの温度依存性は負、すなわち温度上昇にともなって減少する、 ということになります。内部エネルギー\( U \)の代わりにエンタルピー\( H \)を使うと、
すなわち、\( G \) の意味するトコロは、
ということです。
戦前の教科書では「\( TS \)」項に「束縛エネルギー」とか 「死活量」という名を与えていたそうです(現物は見たことありません。 タヌキの学生時代のノートにこのようなメモがあるので、 講義中に聞いたのだと思います)。 現在、「束縛エネルギー」は別の意味(結合エネルギーの別名)で使われていますし、 「死活量」の名は「活量」の定義に対して混乱を招くので、 これらの二つの名称は、使わない方が無難だと思います。 しかし、結構良いネーミングだったのではないか…と言う気がするのは タヌキだけでしょうか???
最初の方にも書きましたが、今は「自由エネルギー」という呼び方は あまり見かけません。ウワサ(どこのやねん?と聞かないでください)によれば、 冒頭に記した、擬似科学系の「フリーエネルギー」と混同されるのを嫌って 「フリー」の文言を避けているとも聞きます。 ホントのところはタヌキにもよく判りません。 誰か真相知っている人、居たら教えてください…